2012年6月3日日曜日

書くこと—短編小説の冒頭の段落 |『幻の旅路』大湾節子のブログ


 短編小説の出だしの段落にはすべての情報が入っている。
 「いつ」「どこで」「誰が」「何をしているか」あるいは「何をしようとしているか」。
 主人公はどんな人物か。歳はどのくらいか。男か女か。相手の人物は誰か。主人公とはどんな関係か。

 短いストーリーだから、たくさんの人物を織り込むことはできないが、冒頭の段落に重要な人物を登場させる。

 最初の段落に、これから展開していく出来事をぼんやりとほのめかす。これを伏線という。物語のなかにはいくつかの伏線が入っているが、最初の段落の伏線が一番肝心である。これがストーリーを展開していく。

 最初の五、六行に、これだけの情報を詰め込まないといけない。となると、よほど力のある作家でないとこの技術はこなせない。

 久しぶり本を読んだ。短編の時代小説である。全く期待していなかったが、とても面白い。というのは、この小説は文章教室で使われる教科書のように� �冒頭の部分から、「書き方」の必要条件を全部満たしているからである。

 冒頭の段落を引用してみよう。

『「兄じゃ、もっとゆっくり走れ」
 と声をかけたのは田川清吉である。長身の兄の名は田川清次郎。先頭を走る若い藩士を兄は負けじと追おうとする。それを短身の弟が引き留める。兄の顔には、お前はうるさいのう、との思いが描かれている。』


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 登場したのは兄と弟。名前は清吉と清次郎。兄弟とも「清い」という漢字が使われている。彼らの名前に注目したい。この名前を見ただけで、兄弟の人物像が浮かび上がってくる。
 姓は「田川」。どこにもありそうな、下層武士の名前が使われている。実際にこのふたりの兄弟が実在していたかどうか分からないが、読みやすい覚え易い名前である。

 「長身」で負けず嫌いの兄、「短身」でしっかり者で兄思いの弟。対照的な性格のふたりが登場する。この違いが葛藤を生じる。といっても、日頃から仲がいいことは、「兄じゃ、もっとゆっくり走れ」とうい冒頭の言葉ですぐ分かる。

 次の段落には、「いつ」、「どこで」が紹介される。短編なので、必要な情報はすべて最初の部分で与えられる。

 『安中(あんなか)藩士達が城内から走り出たのは安政二年五月十八日の早朝のことである。』

 安中藩は上野国に実在した藩で、現在の群馬県安中市。安政二年(1855年)五月十八日� ��いう記述が、この小説は史実に基づいて書かれたものらしいと、真実みが加わってくる。
 歴史的事実の下調べが十分な作品は安心して読める。まず、この小説の枠組がしっかりしている。

 『季節は春を過ぎ夏に向かおうとしている。寒くもなく暑くもない。梅雨が近いせいか湿り気味だ。だが駆け足にはちょうど良い。・・・・・・・・・・


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目的地は碓氷峠(うすいとうげ)の熊野神社。そこまで七里半。往復するのである。十五里はある。それを今日日没までに果たさなければならない。難儀なことである。』

 ここまで読むと、この小説の題名『遠足(とおあし)侍』の意味が分かってくる。

 歴史小説だったので、文章が堅くて難しいのではないかと、読む前から構えたが、簡単な語が続いた短い文章で、歯切れがよい。いかにもマラソンで走っているような快いリズム感がある。
 このスピード感がこの作品の内容とぴったりと合っている。

 アートとは、作曲家がある一つの音を、アーティストがある一つの色を、作家がある一つの語を、命と情熱をかけて生み出していく作業だと思う。
 この小説の中の安易で単純な語句、洗練された文体が、無駄をすべて切り落とした剪定後の「松」を思い起こす。

 兄弟の性格の違いは、起承転結の「転」(climax)で葛藤(conflict)を生じるが、ストーリーはハッピーエンディングで終わっている。

 ということは、この小説は「悲劇」でなく「喜劇」である。読んだ後、読者を楽しく爽やかな気分にしないといけない。
 どのようにしたらそれできるのか。本当のプロの作家は長年の経験で知っている。理屈のない自然な語りかけが、その効果を上げている。


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 母親思いの清次郎、兄思いの弟、賢くて聡明な殿、思慮深い代官、家老とやさしい父親思いの娘、母性本能を取り戻した若い母親、侍たちや村人たちと、みな血の通った心の温かい人物が登場する。
 批判的に書かれているのは庄屋一人だけ。といっても、全くの悪人ではない。どこにでもいる俗人である。

 この小説の底に流れる作者の暖かい視線は、儒教の教えからきていると思われる。老いた両親を敬う家族愛、兄弟愛、組織の中の信頼のおける上下関係、人情溢れる地域社会と、書き手の思いが素直に伝わってくる。

 何回読んでも、新しい発見があり楽しい作品である。文章の「書き方」を学びたい方には、ぜひ一読をお勧めする。

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『遠足(とおあし)侍』(龍造寺信著)は銀河文学賞、歴史小説最優賞に選ばれた作品です。馬場信浩氏(本名)はいままで数々の小説大賞を受賞しておられます。
馬場氏は今回、東日本大震災の被災者支援のために、『『遠足(とおあし)侍』(コピー)を5ドルでお分けしています。ご希望の方は佐藤さん(562-547-5005)まで、ご連絡下さい。

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*伏線(大辞泉より)
小説や戯曲などで、のちの展開に備えてそれに関連した事柄を前のほうでほのめかしておくこと。また、その事柄。「主人公の行動に伏線を敷く」

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*『落し物の広告』
昨日、日の出から日の入りの間のどこかで、 それぞれ六十分のダイヤモンドをちりばめた貴重な時間を紛失。 なお、拾い主には賞金なし。永遠に失われしゆえ。
ポリース・マン Police man

*良いドラマを書こうとすると、これがなかなか難しい。
良いコメディを書くとなると、もっともっと難しい。
コメディありのドラマを書くのは、もうこの上なく難しい。
そしてそれが、人生というものさ
ジャック・レモン(1925-2001) アメリカの映画俳優

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